PERとは
PERは「Price Earnings Ratio」の略称であり、日本語では「株価収益率」と呼ばれます。この指標は、株式が『1株あたりの純利益(EPS)』の何倍で取引されているかを示しています。PERを構成する英語の頭文字は、PがPrice(株価/価格)、EがEarnings(収益/利益)、RがRatio(比率/倍率)です。
PERの計算方法
PERは以下の計算式によって算出されます。
PER = 株価 / 1株あたりの当期純利益(EPS)
企業をまるごと購入するのに必要な金額である時価総額(株価 × 発行済株式数)を当期純利益で割る計算式でも算出可能です。時価総額は、PERのP(Price)が意味する「会社の価格」に相当します。
計算に用いられる、『1株あたりの当期純利益(EPS:Earnings Per Share)』は、「当期純利益 ÷ 発行済株式総数」で求められます。EPSは、1株あたりの利益がどれだけあるかを示す、企業の収益力を判断する指標の一つです。
PER算出に用いる当期純利益は、一般的に企業が発表する当期予想数値を指します。PERにはその企業の現状の収益性だけでなく、今後の成長への期待感も加味されることになります。
PERでわかること
PERは、企業が得た純利益(収益力)に対して、現在の株価が割安であるか割高であるかを判断するための指標です。
割安性・割高性の判断基準
- 一般的にPERの数値が低いほど、株価は利益の割に評価されていない「割安」であると判断されます。
- 逆にPERの数値が高いほど、「割高」であると判断されます。
投資回収期間
- PERは、その企業を丸ごと購入したと仮定した場合に、投資額を利益で回収するのにかかる年数を示すとも解釈されます。例えば、PERが7倍であれば、約7年で投資額が回収できる計算です。この回収年数が短いほど(PERが低いほど)割安だと判断されます。
成長期待の指標
- PERは、企業の収益力や将来的な成長性に市場がどれくらい期待を寄せているかがわかる指標といえます。株価は今後の成長が期待されると高くなるため、PERが高くなる傾向があります。
- PERが30倍など高い場合、市場はその企業の成長性に期待を寄せ、将来的な利益の増加を見込んでいると考えられます。
目安と注意点
- PERに目安となる画一的な基準は存在しません。しかし、大まかな目安として、上場企業のPERは15倍が一つの水準とされています。これは、日経平均株価のPERが約15倍程度で推移していることが多いからです。
- PERの判断には、調べたい企業の過去のPERとの比較や、同業他社のPERとの比較を行うことが重要です。PERの適正水準は業種や市場によって大きく異なるからです。
- 業種による違いもあります。成長期待が高いITやテック系企業、情報・通信業などは高PERになりやすいです。一方、景気敏感株(素材、商社、自動車など)や地味な企業は評価がされにくく低PERになる傾向があります。
- PERが低いからといって必ずしも「買い」ではありません。業績が悪く、株価がそのまま上がってこないことも考えられます。PERが平均より低いとしても、純利益がマイナスの場合は割安という判断にはなりません。純利益がマイナスの場合は、計算上、PERは算出不能(非表示)となることが多いです。
- ノイズの排除: PERの計算に使う当期純利益には一時的な特別損益が加味されるため、企業の本来の実力とPERの数値がずれることがあります。これを避けるため、特別損益を加味する前の経常利益に65%を掛けた数値を使うことで「真のPER」を出す方法が推奨されることもあります。
PBRとは
PBRは「Price Book-value Ratio」の略称で、日本語では「株価純資産倍率」と呼ばれます。この指標は、企業の株式が『1株あたりの純資産(簿価)』の何倍で取引されているのかを示しています。PBRを構成する英語の頭文字は、PがPrice(株価/価格)、BがBook-value(簿価/純資産)、RがRatio(比率/倍率)です。
PBRの計算方法
PBRは以下の計算式によって算出されます。
PBR = 株価 / 1株あたりの純資産(BPS)
時価総額(株価 × 発行済株式数)を純資産で割る計算式でも算出可能です。
計算に用いられる純資産は、企業の総資産から負債を差し引いたものであり、「純粋にその企業の資産といえる部分」を指します。純資産は株主による出資や純利益の内部留保などで構成される株主の資産です。純資産は、仮に企業が解散した場合に株主に分配されるため、「解散価値」とも呼ばれます。
『1株あたりの純資産(BPS:Book-value Per Share)』は、「純資産額 ÷ 発行済株式総数」で求められます。BPSが高いほど、企業の安定性が高いと評価されます。
PBRでわかること
PBRは、企業の資産価値(純資産)から見た株価の割安性・割高性を判断する指標です。純資産は短期間で変動しにくい数値であるため、PBRは企業の安定性を把握する上で役立ちます。
目安となる基準
- PBRの目安は、一般的に1倍とされています。
- PBRが1倍の場合、株価と企業の解散価値が同じ水準にあることを示します。
- PBRが**1倍を下回る(PBR1倍割れ)**場合、株価は本来の企業価値よりも安く取引されていると捉えられ、「割安」と判断されます。
- PBRが1倍を超える場合、株価は解散価値よりも高く、市場が資産以上の価値を認めている「割高」な状態と判断されます。
PBR1倍割れの意味と課題
- PBR1倍割れの状態は、株価が純資産を下回っており、理論上、株主にとっては「今後事業を継続するより、会社を解散したほうが資産価値は高い」と考えられていることを示唆します。これは、企業の成長性に対する市場評価や投資家の期待が低いことを示しています。
- かつて日本企業にはPBR1倍割れの企業が多く存在したため、東京証券取引所は2023年3月に、上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。
- PBRが低い状態が続いている場合、それは投資家によってその株価水準が本来の企業価値として判断されているという見方もできるため、安易に「お買い得」と判断するのは危険です。
- PBRの水準は業種によって異なり、工場などの設備を持つ製造業は保有資産が多くPBRは低くなりやすい傾向にあります。一方、IT企業は多くの設備を必要としないため、保有資産が少なくPBRは高くなりやすい特徴があります。そのため、他業種とのPBRの比較は有効でない可能性があります。
PERとPBRの効果的な覚え方
PERとPBRはどちらも「P(Price: 株価)をR(Ratio: 比率)で割る」構造を持つため、中間のアルファベットが示す要素を区別することが、最も効果的な覚え方となります。
1. 中間のアルファベットによる連想記憶法:
◦ PERの「E」は「Earnings(利益)」
▪ PERのEは「益(Eki)=1株当たり純利益」のE、またはEarnings(利益)と覚えます。
▪ PERは「株価÷純利益」と結びつけます。
◦ PBRの「B」は「Book-value(簿価・純資産)」
▪ PBRのBは「簿価(Boka)=1株当たり純資産」のB、またはBook-value(帳簿上の価値)と覚えます。純資産は企業の貸借対照表(バランスシート/Balance Sheet)に記載されるため、PBRのBをバランスシートのBと連想することも、計算式を覚える上で有効です。ただし、本来はBook-valueのBである点には注意が必要です。
▪ PBRは「株価÷純資産」と結びつけます。
2. 語呂合わせによる記憶法:
◦ 計算式全体を覚える PERやPBRなど投資指標算出に使う数値を、上から下に割って指標を求めるために、「ハイ カラ ジュリエットが 事故し そう」という語呂合わせが使われます。
▪ カラな(株価)
▪ ジュリエット(純利益)
▪ 事故し(自己資本/純資産)
▪ そう(総資産) これらの語句の上下関係を覚えておけば、PER(株価÷純利益)、PBR(株価÷純資産)、ROE(純利益÷自己資本)の分母と分子を間違えずに済みます。
PERとPBRの違いは
PERとPBRはどちらも株価の割安性を判断するための指標ですが、**株価と比較する対象(分母)**が異なります。この違いが、それぞれの指標が示す意味や適した分析期間を決定づけています。
指標 | 比較対象(分母) | 示すもの | 変動の傾向 | 適した分析期間/視点 |
PER (株価収益率) | 純利益(Earnings/収益力) | 収益から見た割安性、成長期待 | 年度によって大きく変動しやすい | 短期的な評価、将来性重視 |
PBR (株価純資産倍率) | 純資産(Book-value/資産価値) | 資産から見た割安性、安定性 | 短期間では変動しにくい | 中長期的な評価、資産価値重視 |
株価との比較対象の違い
• PERは、株価と純利益の関係性を表し、企業が得た「利益」という収益力に着目します。
• PBRは、株価と純資産の関係を意味し、企業の保有する「資産価値」に着目します。
変動の安定性の違い
• PERの分母である当期純利益は、その年の業績や景気動向に大きく影響を受け、短期間で変動しやすい要素です。
• PBRの分母である純資産は、企業の歴史的な積み重ねであり、当期純利益のように短期間で大きく変動しにくい傾向があります。
投資家の期待値と用途の違い
• PERには当期予想数値が用いられるため、その企業に対する投資家の期待値や成長性を示す側面が強く出ます。PERは、企業の成長性や将来の利益増加に重点を置いて投資判断を行う際に適しています。
• PBRは、企業の資産価値や経営の安定性を重視したい場合に活用しやすい指標です。
P (Point: まとめ)
PERとPBRは、投資判断において株価の妥当性を客観的に評価するために不可欠な指標です。PERは「利益(E)」に着目し成長期待を測る指標、PBRは「純資産(B)」に着目し安定性を測る指標という基本的な違いを、語呂合わせや相関関係(BOEの図)といった効果的な覚え方を活用して確実に区別し、それぞれの指標の特性を理解することが重要です。しかし、これらの数値はあくまで投資判断の一つの要素に過ぎず、PER、PBR、そしてROE(自己資本利益率)を含む複数の指標や、企業の経営方針、市場環境、将来性といった他の要因も総合的に考慮して判断することが、成功する投資家への道となります。
PERとPBRのまとめ
PERとPBRは、投資判断において株価の妥当性を客観的に評価するために不可欠な指標です。PERは「利益(E)」に着目し成長期待を測る指標、PBRは「純資産(B)」に着目し安定性を測る指標という基本的な違いを、語呂合わせや相関関係(BOEの図)といった効果的な覚え方を活用して確実に区別し、それぞれの指標の特性を理解することが重要です。
しかし、これらの数値はあくまで投資判断の一つの要素に過ぎません。PER、PBR、そしてROE(自己資本利益率)を含む複数の指標や、企業の経営方針、市場環境、将来性といった他の要因も総合的に考慮して判断することが、成功する投資家への道となります。